アフロディーテ(ヴィーナス・ジェネトリクス型)

湯浴みを終えた女性が、静かに歩みを進める姿。力強い体の曲線美、そこに薄い布を優雅にまとい、これにより胸の一部と肩の丸みが強調されているのがわかるでしょう。自然な仕草で、静かに上着を整え、少しだけ頭を傾け、リンゴを手渡しています。一見何の変哲もない果物ですが、これにより最も美しい女神の象徴とされ、さらにトロイア人とギリシャ人の間で戦争すら引き起こされます。しかし、それはホメロスが『イーリアス』で語った別の物語。
古代の世界では愛と美の女神として知られ、その優美な佇まいは、ギリシャの彫刻家カリマコスが手掛けた青銅像に想を得て生まれたローマの作品だと言われています。こうして、ローマのパンテオンのヴィーナスであるウェヌスは、ギリシャのアフロディーテの姿も反映しているのです。
紀元前46年頃、この女神像の複製がユリウス・カエサルがローマに築いた新たな公共広場の中にある「ウェヌス・ゲネトリクス神殿」に奉納されました。カエサルは、自身の権力をこのようにして形にしかったのでしょう。この「ゲネトリクス(genitrix)」という言葉は、ラテン語で「母」を意味します。この言葉は「すべての始まりとなる母」という意味合いを宿し、女神をカエサルの神話上の祖先として位置付けるものなのです。